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08-05-23 17:29
[五月になると]
五月になると思い出す。
小学生だった僕たちは放課後になると校庭にあった裏山で
道草してた。裏山にはちょっとしたジャングルジムとトンネルが
あって僕たちはそこで、よく話をしていた。

その日は雨だった。
雨の日は授業が終わるとまっすぐ帰宅するんだけど、その日はなぜか
裏山が気になって傘を片手に寄って見た。
トンネルの中から犬の鳴き声がする。
僕たちは興味深々で中を覗いた。ずぶ濡れになった子猫がいた。
家に連れて帰ることが出来なくて、僕たちはそのトンネルの中で飼うこと
に決めた。
貯金箱の小銭を持ってえさ桶やご飯を買い、友人はタオルを自宅から持ってきてた。

誰にも言わず、僕たちだけの秘密。小さな友達ができた。
毎日が楽しくて、昼休みも放課後もその子に会いに裏山へ行った。
学校が休みの日も・・。
それから数ヶ月後。

朝からかなり激しい雨だった。
いつもより早起きして裏山に行った。
あの子がいない。どこにもいない。友人と授業なんかそっちのけで
探し回ったけど見つからなかった。
トンネルの中にはあの子が使っていたえさ桶がタオルの上にまるで
あの子が置いたかのようにしてあった。
タオルはまだ温かかった。
僕は涙が出そうで友人にばれないようにわざと雨の中に飛び出した。
友人が言う。

「きっと大切に育ててくれる人に連れて行かれたんだよ。
 またいつか僕たちに会いに来てくれるって。ここにいるより
 幸せになれるよ」

そうだね。きっとそうだよね。
その日以来、あの子が僕たちの前に現れることはなかった。
あれから10数年経って、友人と同窓会の席で再会した。
僕たちは昔を懐かしんだ。どちらともなく、あの子の話が出た。
大人になったのに、あの子の話をする友人の顔は小学生のあの頃の
笑顔に見えた。きっと僕もそうだったに違いない。

たったひとつだけ、悔やんでいることがある。
それはあの子に名前をつけてあげていなかったこと。
友人もずっとそれは思っていたらしい。
僕たちは名前を考えた。
「あめ」
出会ったときも「あめ」がいなくなったときもいつも雨が降っていた
から。

今はどうしているんだろう。
僕たちは今でも、あめのことを忘れてないよ。
初めて会った日のか細い声も。抱きしめたぬくもりも。
出会ったときの喜びも。そしていなくなったときの胸の痛みも。

ありがとう。

同窓会を終えて、ふと空を見上げると夏がそこまできていた。
ちょっとだけ涙がでた。

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