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[遠い昔の話]
東京オリンピックを前に、私の家の近くでも、新しい競技場の工事が行われ、それに煽られるように、団地や道路の建設が、いたる所で進んでい
た時代のことです。

小学生だった私のクラスに、女の子が転校して来ました。

建設現場で働く父親、そこで賄い(まかない)の仕事をする母親、工事が完了すると、次の建設現場へと、仮住まいをしながら生活している一家
の女の子でした。

「この学校は4つ目だよ。」と、屈託なく話す、人なつっこい子でしたが、学校が変わるたびに、先生と教科書が変わるせいでしょうか、およそ
勉強は出来ず、授業中はいつもつまらなそうにしていましたが、あちこちの小学校で覚えてきた、ゴムだん跳びが得意で、昼休みになると急に元気
になって、クラスの女の子達に、みんなの知らない新しい跳び方を教えてくれたことを覚えています。

当時、私達の間では、今で言うところの人気アニメのキャラクターのついた文房具が流行っていました。私も母にねだって筆箱を買ってもらいま
した。ところが、どういうわけか、その筆箱のふたのスナップの具合が悪くて、ふたがすぐに開いてしまうのです。私は残念で、悔しくて、かと
いって買い換えて欲しいなどと母に言えば、「だから、流行の物なんて…ほらごらんなさい」と言われそうで、不便を隠して使い始めました。

学校で使っていると、あの女の子が、ちょっと羨ましそうな顔をして「見せてっ!」とよってきました。その時、今、思い出しても恥ずかしくな
るようなことを私は思いつきました。これをその子にあげて、自分は新しいのを買って貰おうと思ったのです。「これ、あげようか?」と私が言う
と、「いいの?頂戴!」と、その子は受け取りました。
私は、帰宅して、母に「あの子だけ持ってなかったから、あげちゃった。だから、もう一つ買って!」と、言いました。その子の決して豊かとは
いえない生活、転々とする生活の中で、服にしても、持ち物にしても、必要最低限のものしか持っていないことを、母は知っていて、時には同情的
な気持ちを抱いていたからでしょうか、「子供が勝手に、自分の持ち物を人にあげるのは、よくないわよ。」と、言いながらも、私に同じ筆箱を新
しく買ってくれました。こんどのは、ふたの具合もよく、私は満足でした。

何日かして、お昼休み、何かの用で、一人で教室に戻った私は、その子の机の上
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